止めたかった。
俺を代わりに殺せと言いたかった。
でも言えなかった。
死を怖がる自分がいた。
「わあぁぁあぁあああぁあぁ!!ああぁあぁあぁああぁああ!!」
泣き叫ぶは圭の主。
圭は傷口近くを押さえてその光景を見ていた。
ただ やり場の無い怒りに駆られながら。
ただ激しい自己嫌悪を感じながら。
水鶴の目の前には、左胸に刀を突き刺した状態で動かない菊乃がいた。
「よくやったな水鶴。お前が殺したんだ」
「わたしが…わたしが」
わざと水鶴を追い詰めるように、理一は言う。
水鶴は自分の行動を恨んだ。
「して、柊の息子」
理一が圭に声をかけた。
「……」
圭は黙って理一を見上げた。
「このままでは お前も出血多量で死んでしまうな…。剣捌きの速さで定評のあるお前に…いい義手をくれてやろう」
「…?」
こうして圭の左手には、鎌が取りつけられた。
鎌を取りつけた術後…。
「…! 水鶴様…」
眠っていた圭の傍らで、水鶴が座っていた。
(いつもと様子が違…う)
圭は起きるなり水鶴の異変に気がつき、声をかける。
「水鶴様、如何なさいまし…たか…?」
「…別に何も……」
返答した水鶴の声に、力は込もっていない。
水鶴は、顔を上げた。
「何も変わらない。いつも通りの最低な私だ…」
そう言う水鶴の目に、光は灯されていなかった。
あぁそうか。
このお方は…俺が眠っている間に壊れてしまったのだ。
俺が左腕を失うような真似をしたから。
俺が代わりに死ななかったから。
俺のせいなのに。
俺のせいなのに。
俺のせいなのに。
起き上がり、用を足してくると嘘をついて、圭はフラフラと病室から出た。
そこには東吾がいた。
東吾は何か言おうとしたが…
――ザクッ。
「黙…れ」
圭は その左腕で東吾の首をかき斬った。
鎌の付け根が痛むが、全く気にしない。
のちに理一に呼び出されたが、圭は堂々と言ってのけた。
「俺が仕えるのは水鶴様だけ…だ。
他の人間は ただの邪魔…者。
邪魔者を斬って…何が悪…い?
死ぬのはそいつらが弱いから…だ」
「…ふ、柊の息子。わかってきたじゃないか」
こうして圭は咎められることはなかった。
しかし彼は確実に壊れていっていた。