そして現在。
「はッ、はぁ、はぁッ」
息切れしながらも走る、水鶴。
「はぁッ、は…。ぅ、うぅぅう…」
5キロほど走ったところで、水鶴は立ち止まった。
そしてそのまま、ガクリと膝を折った。
「柊…」
その口から零れるのは、自分についてきてくれた部下の名。
自分が壊れたあとも自分に仕え、今こうして逃がしてくれた部下の名。
「柊いぃいぃぃいいい!!ッあぁああぁあぁぁ!!」
とうとう泣き出してしまった水鶴。
地面を力任せに殴り、拳には血が滲む。
失うくらいなら、はじめから手に入れなければいいと。
そう思って圭を突き放そうと、冷たくしたはずだったのに。
圭は離れなくて。
圭まで壊れて。
いつしか、大切な存在になっていた圭を失うのが怖くて…。
もう私には何もない…。
父上は あの日から信頼していない。
兵は私を恐れるだけ。
あぁ。
独りか、
独りか、
独りなのか。
心の支えが消えた今。
私の存在は必要なのか?
「うぅ…ッ」
水鶴は また前に進みだした。父、理一のいる自神宗の陣の方向へ。
それ以外に彼女に行き先は なかった。
水鶴を追いかける晶は、途中皆神の兵と会った。
「おっちゃん、水鶴見なかった!?」
「中村水鶴のことか?さっき出くわしたぜ」
晶の問いに、顎髭をたくわえた兵は答えた。
「…!? 何もされなかったの?」
そのまま走り去ろうとした晶だが、思わず止まって聞いた。
「あぁ、俺も殺されると思ったんだがな。何故か逆に向こうが逃げていった感じだったぜ?」
何でだろうな?と苦笑いしつつ、兵は言った。
「わかった、あんがとな、おっちゃん!!」
「気をつけろよ晶ぁ!」
晶は また走っていった。