竹「でも、驚いたわ」
出口まで二人を案内しながら竹本が言った
竹「変わったわね」
光「変わった?」
竹「ええ。以前より人間らしくなったわ、演奏が。前のあなたならもっと完璧主義で、演奏もとにかく完璧だった。でも今日は、とても人間らしさを感じたわ。」
光「…人間らしさ」
竹「それに、今日の選曲もそう。あなたのことだからもっと…そうね、技術を見せられる、もっと難易度の高い曲を選ぶと思ったわ」
光「あの曲…小さい時からずっと好きだったんです。」
竹「そう…」
出口までたどり着き竹本が扉を開ける
竹「いい返事を期待しているわ」
竹本に見送られながら二人は暗闇の中を並んで歩いた
慶「どうすんの?」
光「…わかんない…」
慶「ふーん。…そういえば、俺、さっきの曲、聴いたことある。なんて曲なん?」
光「エルガーの“愛の挨拶”有名やから、CMとかで聞いたんじゃない?」
慶「ああ、そうかも」
光「エルガーがね、キャロラインに婚約記念に贈った曲で、ヴァイオリンなんかでも演奏される。」
慶「へえ…俺、あの曲好き。」
慶太郎の笑みに光希は心が少し軽くなった気がした