子供のセカイ。162

アンヌ  2010-04-19投稿
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姿が見えなくなった途端、耕太はひそひそと美香に囁いた。
「あいつについていって大丈夫なのかな?なんか態度悪くねぇか?」
「仕方ないわ。他にコルニア城へ向かう方法はないし……。ここにいるミルバが信頼できないなら、さっきまで一緒にいたミルバを信じればいいのよ。」
もっともな美香の言葉に、耕太はしばらく黙っていたが、やがて一つ頷いた。ミルバがひょいっと曲がり角から顔を覗かせ、いつの間にか立ち止まっていたことに、二人はようやく気づいた。
「何をしている?私について来る気があるのか?」
「あ、今行くよ!」
耕太は慌ててミルバの背中を追い、美香もそれに習った。ミルバ、耕太、美香の順で一列になり、細い路地を通り抜ける。
そうして三人は、しばらく夜の街を走った。それは奇妙な体験だった。街の上には満月に近い月が煌々と輝き、家々は青い影を落としている。まるで脱獄した犯罪者のように、家の影から影へと伝うようにして、三人は小走りに走り続けた。
ミルバは足が速かった。その上、体がとても小さいため、美香たちは時折その姿を見失い、焦った。そんな時、ミルバは必ず美香たちの所に引き返してくれた。案外先程のミルバより性格が悪いというわけではないのかもしれない……。息を弾ませ、汗を拭いながら、美香はぼんやりとそんなことを思った。もっとも、戻ってくる度に「遅い」だの「私は亀と連れ立っているのか?」などと、散々文句を言われはしたが。
そうこうしている内に、家々の形が統一され始め、道は整備された歩きやすいものへと変わっていった。例えるなら、田舎から都会へ出てきたような感じだ。それと同時に、夜が明け始めた。群青色の空に、星が最後の光を灯している。
「そろそろどこかの家で休もう。」
ようやくミルバが提案して、美香と耕太はほっと息をついた。手足が鉛のように重く、二人共くたくただった。しかし、ミルバに続いて細道から大通りのへとまろび出た途端、子供の小さな背中が一瞬にして強張った。
「待て!」
ミルバは腕をまっすぐ横に伸ばし、先へ進もうとした耕太を押し留めた。耕太はびくっとして立ち止まると、キョロキョロと辺りを見回した。
そして、三十メートルほど先の大通りの真ん中に、すっくと立っている、長身の人物の存在に気づいた。



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