「倉沢くん、ちょっと付き合ってくれないかしら?」
「え、別に構いませんが。…なんですか、一体?」
閉店後に俺、倉沢諒司はコルスの店長である手島美和からお誘いを受け、多少の戸惑いを覚えていた。
(いつもの『諒司くぅ〜ん』じゃねーな…)
「そんなに警戒しなくても平気よ、ウフフ。 ただ、お話があるだけなの」
「…じゃ、聞かせて貰う事にします」
俺たちは、美和のBMWでコルスを後にした。
「あら?どうしたの、居心地の悪そうな顔をして」
「いやぁ… こんなお店なんてビンボー人には縁がないもんで」
手島美和に連れて来られたのはヴァン・ロゼという会員制の高級クラブである。
彼女は水を得た魚の様に自然に振る舞い、実に落ち着き払った態度でいた。
「ここなら、呼ぶまで誰も来ないわ。
話の邪魔される心配はないって訳、ウフフ」
「ところで、話って何ですか? …サボリも遅刻もないと思いましたけど……」
「それは柿崎くん達の得意ワザでしょ?
今日はアナタと恵利花さんの事なのよ」
「俺達の?……」
美和は、答える代わりに俺の目を深い色合いの瞳で覗き込み、艶然と微笑んだ。
日本人離れした彫りの深い美貌と相まって、ちょっとゾクゾクさせられる。
「アナタ達は滅多にお目にかかれない組み合わせよね。 それに、最高のタイミングで彼女の前に現れたのもアナタよ、ウフフ…」
「へ?現れたって言うんならエリカの方ですよ。
インパクト大だったし…」
「いいえ、アナタが恵利花さんの《運命》を変えて救ったのよ」
「救った?…」
いぶかる俺に、手島美和は驚愕すべき事を語った。
「そう。 …彼女、本来は二十歳前にこの世を去る運命だったのよ」
「何ですって!?」
俺は、弾かれる様にソファから立ち上がっていた。