* * * * * *
翌朝――
あまりよく眠れなかったにしては目覚めは悪くなかった。
むしろ、頭がいつもよりスッキリしている。
時計を見れば、午前5時半。
家族4人揃って朝食を食べる習慣など、全く無かった我が家だが、
ユキエも今朝は緊張して早くに目覚めたのか、
キッチンから、カチャカチャと食器の音が聞こえてくる。
リョウの弁当でも作っているのだろう。
今日は、ユウを学校を休ませるつもりではいるが、
リョウもまだ寝ていると思われ、
リビングには、2人共まだ下りてはいないようだ。
『おはよう。
ユキエ、今朝は随分早いじゃないか。』
『えぇ。なんか目がさえちゃって。』
ユキエがパート先に電話を掛け、上司から、出勤時間が少し遅れる事についての許可を得たら、
いざ出発だ。
夕べは、何かいい案でも浮かんだかのように、
ユキエに、付き合ってもらいたい場所があるなどと言った訳だが、
具体的な案など、全く考えてはいなかった。
しかし、担任に会って、ユウへのイジメの事実を認めさせ、
今後、イジメの主犯格の行動を監視してもらわなければと考えたのだ。
保護者2人揃った方が、真摯に受け止めてくれるだろうというのは、
俺の傲慢かも知れないが、
何としても、我が子を今の苦しみから解放してやりたいと思うのが、
親心というものだろう。
『あなた。
売り場のチーフリーダーが、遅れて出勤する事を了解してくれたわ。』
『よし!!
俺が運転するから、ユキエは後ろに乗ってくれ!!』
車は、仕事を辞めた時に売ってしまった。
ユキエ愛用のママチャリは昨日、複合商業施設の屋外駐車場の一角へ置いてきた。
俺は、粗大ゴミに出そうと思って、ずっと庭の隅に置きっぱなしにしていた、
かろうじて乗る事の出来る、サビ臭いポンコツのチャリの後ろにユキエを乗せ、
ユウの通う中学校へと急いだ。