その頃の夕は、非常に忙しかった。圭による最後の足掻きで、その場にいる皆神の兵は晶以外に2.3人ほどしか生きていなかったからだ。
残りは皆 死んでいて、夕は死体の埋葬をすることとなっていた。
「確かここで…晶に庇われたんだっけ?」
ひとしきり作業が終わった後、夕は辺りを見回しながら言う。
「あら、よく覚えてるのね。夕ちゃん」
「福野さん」
夕に話しかけた人物は、晶が重傷を負った際に、彼を助けた福野だった。
「考え事?」
「ううん、大したことじゃないの…」
福野の問いに、夕は作り笑いを浮かべて首を横に振った。
「小さくてもいいわよ。私でよかったら聞くわ」
福野が、優しい笑みで言う。
「うん、ありがとう…」
ニコリと笑い 頷いた後で、夕は「あたしね」と言葉を紡いだ。
「晶や中村水鶴や柊圭と違って…何もないの」
「…どういう意味?」
夕の言っている意味がわからず、福野は首をひねった。
「あの三人はね…“独りきり”になったことがあるんだよ」
「どうしてわかるの?」
「目を見てたら何となくわかるよ…。
三人とも“独りきり”の寂しさを知ってる、冷たい目なの。
今でこそ、晶は あんまりわからないようにしてるけど…」
「よく見てるのね…」
フッと笑って福野が言うと、夕は寂しそうに笑い返した。
「自神と皆神を合わせても、10代後半なのは あたしたち四人だけなの。
その中であたしだけ…あたしだけ“独りきり”になったことがないのよ?
…何か仲間はずれにされた気分」
「夕ちゃん…」
福野が何か言いかける前に、夕は「でもね」と続けた。
「“独りきり”になるのが あたしは怖い…。
晶たち三人が味わった苦しみを、あたしの心は拒絶してるの。
あたし、最低だよね?
いつも自分ばっかりで、その癖に偉そうに無理をするなだなんて晶に言っちゃったし…。
あたし、あたし…」
夕は泣いてしまった。
とめどなく溢れる涙が頬を伝って落ちる。
「夕ちゃん…晶君はそのくらいじゃ怒らないわよ。むしろきっと…苦しむなって言ってくれるわ」
今は待ちましょ?と言い、福野は夕の頭を撫でた。
夕は、コクリと頷いた。