「それはそうだけど…それじゃ二手に分かれた意味が無いでしょう?」
ミーナは苦笑した。
「それもそうか…」
ザックは小さく頷いて、頭を掻いた。
「あ…それより、賞金稼ぎになるキッカケになった女性ってどんな人だったの?」
ミーナは興味津々といった感じの表情で、ザックを見た。
「何で突然そんな事?」
「暇だし、話す事も限られてきたし…とくれば、やっぱり恋愛話ししかないでしょう!」
「…はあ…」
ザックは顔をひきつらせながら、一つ小さく息を吐いた。
「恋愛とかそういうものじゃなくて…本当に単なる憧れみたいなものなんだけどな…」
「憧れから恋愛に昇華する事だってままあるのよ」
「それはそうかもしれないけど…ただ、なんていうのかな…本当に強いんだよね、あの人は」
「強い?」
ミーナは首を傾げた。
「僕と七歳くらいしか違わないらしいんだけど、剣の腕は凄かったし、教えてくれた事も的確だった。何より芯が一本通っているというか…」
「信念の人だった、ていう感じ?」
「そう。正にその通り」
ザックは大きく頷いて、傍に置いてある剣を撫でた。
「それは…その人から?」
ミーナは剣を指差した。
「うん。僕の家に滞在した最後の日にプレゼントしてくれた」
「そう…」
「これを手入れ以外で抜いた事は一度も無いんだよね」
ザックは剣を抱きかかえて、毛布の上に寝転がった。
「相手がいなかったから?」
「いや…『剣はみだりに抜いてはならない』っていうあの人からの教えがあったからね」
「本当に尊敬しているのね。その人の事」
ミーナは微笑みを浮かべて、ふっ…と一瞬、目から光が消え失せた。