その頃、ダミス山の麓の村では、村人たちが困惑したような表情で、中央からやってきたという白髪混じりの役人を見つめていた。
｢この山に軍の保養所を造る…！？｣
｢どうしてこんな所に？｣
｢ここらに砦ってあったか？｣
｢静かにして下さい｣
役人の男は小声で疑問を口にする村人たちを制した。
｢来週からカシアス国軍は保養所建設の為ここに仮設の邸宅を造ります。ですが、あなた方に迷惑を掛けるつもりはございませんので、いつも通りに過ごして下さい｣
｢いつも通り…って｣
｢なあ…｣
村人たちは不安そうな顔で、周りを見渡した。
｢以上です。後は軍の方々の指示に従って下さい｣
役人の男はやれやれといった表情で肩を上下に動かすと、付き人と共にさっさと村から出て行ってしまった。
｢何だ、あの態度は！｣
｢おい、止めとけよ｣
役人の態度に激怒した一人の村人が彼を追いかけようとしたが、他の村人に止められた。
｢ダリル、どうやらこちらで間違いないみたいですね｣
村人たちが集まっている最後尾にいたエナンは、隣にいるダリルに耳打ちした。
｢ああ｣
ダリルは小さく頷いた。
―いい具合に不信感を持ってくれましたね。
エナンは心の中でニヤリと笑って村人たちを一瞥すると、ダリルと共にその場を離れた。
次の日の朝、二人は手伝いを了承してくれた村人に礼を言って、村から出て行った。
｢なるほど、ダミスか｣
スレイは机に広げられた地図を凝視した。
｢ここは現地の者があまり入らない未開拓の山ですから。隠し場所としては最適かと｣
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