alone 68=頬に涙を=

兼古 朝知  2010-04-25投稿
閲覧数[387] 良い投票[0] 悪い投票[0]



「父上の処刑の執行を引き受けろ?あぁいいよ」

「えぇッ??」

あっさりすぎる水鶴の返答に、晶は思わず間抜けな声を出した。

「大方、私が本当に自神を裏切り皆神に帰順するか試す…といったところだろう?」

「お、おう。勘の鋭い奴だなぁ、お前…」

晶が頭の後ろを掻いて言うと、水鶴は微笑した。

「で、でも…本当に大丈夫か?無理すんなよ」

心配そうに尋ねる晶に、水鶴はフンと鼻をならして答える。

「無理をする必要はない。首を切ればいいんだろう」

「そりゃそうだけど…」

晶が口ごもると、水鶴は溜め息をついて言う。

「ハァ…。心配無用だ、晶。だからそんな顔をするな」

「そんな顔ってどんな顔だよ?」

「…そんな顔だ」


こうして、理一の死刑執行は、水鶴が担当することとなった。


雨の降る中、普段 晶たち皆神の兵が招集される場所に、皆神宗信者たちが全員集まった。
晶も、じっと理一と水鶴が出てくるのを待っていた。夕は その晶の隣に立っている。

「! 来たぞ」

ザワザワと辺りが騒ぐと共に、普段 軍師が指令を出す塔の上に、水鶴たちの姿が現れた。地上8メートル程の、小さな塔。


「――フーッ…」


一息ついて、水鶴が理一を見た。
理一は ただ目の先の何も無い景色を見つめている。

――ヒュン

風を斬る音が鳴り、理一の首筋に刀が寸どめされた。

「…最期に…言いたいことは ありませんか」

水鶴が言うと、理一はチラリと下を向いた。
その目線の先には、晶。

「…少年。
あの時は答えなかったが…私にも、大切な人くらいいたさ…」

理一はハッキリとは聞き取れない大きさの声で言ったが、晶には届いていた。

「…その人は、死んだのか?」

晶の問いに、理一は微笑して答える。

「いるじゃないか。
……私の、隣に…」

理一は水鶴を見た。
水鶴は刀を理一に向けたまま、目を見開いた。

「ちち、ぅ え…?」

「水鶴、
許さなくてもいいよ。
こんな愚鈍な父など…
忘れてしまいなさい」



――ズパッ!!



水鶴は、

理一の首を斬った。




頬に涙を伝わせて。







投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 兼古 朝知 」さんの小説

もっと見る

ノンジャンルの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ