第六話 事件現場
「宇川君、ここには何も無かったわ。早くここから逃げましょう」
雪野が古びた廃屋ビルの窓から事件現場を見ていた京都を階段を下りながら呼んだ。京都は手袋を落とした杉本を見て軽く笑みを浮かべた。そしてさっさと逃げようと窓から目をそらした。目をそらした瞬間杉本に見られているとも知らずに……
「ごめんね、佐藤さん。僕の予想は外れてたみたいだ」
京都が雪野に謝ると、雪野は首を横に振って
「いえ、私だけだったらこんな考えは出来なかったわ」
雪野は笑って答えた。
〜一時間前〜
「げっ現場ですって!?」
ファーストフード店内で雪野は大きな声で………いや実際には大きな声は出せないので周囲のおばちゃんには聞こえない程度の大きさでいった。犯人は事件現場に戻るという話はよくあるが、そんな事を実際にやることはない……というかその意味が分からない。雪野は京都に疑いの目を向けてじっと見つめるが京都は大真面目な様子でトレンチを机に置きもう一度椅子に座りなおし雪野に説明を始めた。
「佐藤さんはこれからどうしたい?殺人犯として一生逃げ回りたい?けど、君はやってないんでしょ?」
京都はシリアスな話をしているのにかかわらず顔が少しニヤけている。雪野の顔をまじまじと見ているからだろう。こいつも危機感がなくなりやすい奴かもしれない。大丈夫なのだろうか?このコンビ?と、思ったがニヤケている京都に対して雪野は真面目な表情で
「もちろん!あいつらを見返すために無実を証明してやるわよ!」
雪野の目にはメラメラと火が燃えていた。この熱意にニヤケていた京都もビクッとしてしまったが、すぐに真面目な顔に戻した。雪野は敵に回してはいけないと、再度認識しなおし、また雪野が犯人ではないと感覚的に思った。平たく言えば勘だが。しかし、勘で一生を懸けてしまう京都はすごいと思う。まぁそんなことは今はどうでもいい……京都は雪野の目を再度見て口元だけニヤリとして
「じゃあ無実を証明するためにはどうしたらいい?」
「それは……生徒手帳以上の証拠をあげればいいんじゃないの?」
「そうだね。じゃあ今現在一番証拠がありそうな場所は?」
「それは……警察署か事件現場じゃない?けど、警察署に乗り込むのは不可能よね」
「じゃあ残っているのは?」
「それは……事件現場」
「じゃあ決まりだね」