『本当の事言ってよ!!』
子供は怒りを含んでいるのか、すがっているのか分からないような目で訴えてきた。
(まずいな…)
私の嘘を薄々感じながらも、きっと信じたい気持ちもあるのだろう。まるで、恋人の不貞を責めつつも、心のどこかで無実を信じたい女のよう。
【浮気なんて嘘よね?ね?】
浮気はあくまでシラを切り通すのが優しさだとか、よく言われてる気がする。なら、この場合もやっぱり…。
「何言ってんの。ママが嘘つくわけないでしょ」
『じゃあどんな魔法なのか教えてよ!』
「だからそれはさあ〜ママの会社の工場で物を作るときとかにさ、使う魔法だよ」
『…』
(…やっぱり無理かな…?)
俯いてしまった子供の顔をのぞきこむと、低い声でつぶやいた。
『…そんな魔法じゃ、おうちにどろぼう来たら◯◯◯(子供の本名)のこと守れないじゃん』
「えっ?」
ウチの子はお化けの他に、どろぼうも怖がっている。ちなみにその意味は広く、彼女の中では人殺しもどろぼうのうちに入っている。
「…いやあ、だいじょうぶだよ!物を作る魔法っていってもさ、ホラ、火をおこすとか電気をおこすとかいろいろあるから、どろぼうだってビリビリってやっつけられるよ」
『本当…?』
「本当だって!」
さっきのことなどすっかり忘れてテレビに夢中になっている子供の背中を見ながら、
(…はあ〜っ…)
自己嫌悪に陥っていた。
浮気なら隠し通せば済むことかもしれないが、これはそうはいかない。いつかは分かってしまうことなのだ。その時、子供はこんな母親をどれだけ責めることだろう。ママなんてもう一生信じない!とか、あっち行ってよ!とかいうのかしら。口も聞いてくれなくなったりして…ああ〜っどうしよう!なんとかしなくちゃ…!
それからしばらくして、解決策を思い付く。仕事場で少し足をくじいた翌日、いや翌々日だったろうか。
「◯◯◯、ちょっとここに座りなさい」
夕飯の洗い物の後、座卓の前に正座をすると、お絵かきかなにかをしている子供を呼びつけた。
『なあに?』
顔をあげて返事だけする子供を再度呼びつけ、座卓の前に座らせる。
「いい、ママこれから大事な話をするからよく聞いて」
『うん』
「ママはね、実は…」