パレオス星邦首都星ティヴィタヴェキア周回軌道上・最外縁征討軍旗艦・D=カーネギー
『放してっ!放してよ!!』
船内に広く取られている通称《大使館村》と呼ばれる居住区は外交上最も重要なエリアの一つであっただけに、そこの警備が厳重だったのは言うまでもない上に、更に最近の星間諸侯太子党のテロ行為がそれのより一層の針鼠化を促したとしても不思議では無かったであろう。
だが人員にして数倍、融通のきかなさに至っては十倍以上になってしまったガードの固さが沢山の消極的被害者・犠牲者を量産し続けていたのも事実であった。
『私はここに用があるの!ほら、これを見て!ちゃんと記者IDも発行されているんだから!!』
その哀れな群像の一人にパレオス中央通信社人権・社会部記者・ジョヴァンナ=バウセメロがいた。
筋骨隆々とした憲兵二人に両脇を鷲掴みにされて、彼女はブロンドの髪と大きくて丸い茶色の宝石の垂れたイヤリングと、首から下げたIDと声を振り乱す。
記者特権も治外法権もついでに言えばレディファーストも、出入口を固める黒軍服の検問の前ではなしのつぶてだった。
『申し訳ありませんが』
捕まえた腕を痛い程締め上げる力の込め具合とはかけ離れた平板な口調で憲兵は、
『今は非常時なので元からの住人・要人の身の安全を優先せよとの命令なのです』
今度は骨がへし折れんばかりにギリギリとねじりを加えてくる。
怒りか痛さか、思わず絶叫した女性記者を大勢の通行人が目に止めたが、誰も憲兵をおもんぱかって声をかける所か足も止めようとはしない。
『痛い!痛いって!!太子党には手出し一つ出来ないくせに!何だってこんな時だけ強く出れるのよ!!』
悲運の女性記者はこのまま摘まみ出されるかと思われた―\r
だが―\r
『ちょっと待って下さい』
一人だけ足を止めた人物がいた。
それ所かつかつかと憲兵達へと向かって歩み寄って来るではないか。
『これは総領事殿』
憲兵から総領事と呼ばれた人物は、とてもそんな高級役職を勤めているとは思えない姿をしていた。
みすぼらしいとか風采が上がらないとか、そう言った意味ではない。
不自然なまでに若すぎるのだ。
若いどころかどこからどうみても少年ではないか!
年の頃は精々一七、八、身長はやや小柄だが不思議と気品と風格と威厳に満ちていた。