2 呪負
『呪いって‥どんな?』
私は多哀の光の無い目を真っ直ぐに見て訪ねた。
多哀は,
私に背を向けて淡々と語り出した。
『お前‥七夕の昔話。知ってるか?』
七夕‥
いくら常識の無い私でもこれ位は知っている。
『勿論!
織姫と彦星の恋の話。』
だった筈。
多哀は午前の太陽に照らされた地面を見た。
『恋か‥
恋は恋でも,悲恋だ。』
『ひれん?』
『織姫と彦星は交際を意地の悪い天帝に認めてもらえず,天の川を隔てて引き離されてしまった。悲しんだ二人はその後,7月7日に天の川で入水自殺したと言うのが,本来の話なんだ。』
『‥マジかよ。』
小さい頃から親しんで来ただけにショックだった。
『話はここで終わりじゃない。』
多哀は冷酷に言った。
『あの世で出会った二人は,意地の悪い天帝に300年も続く呪いをかけたんだ。数週間後天帝は謎の病で死に,その子孫も呪いで20年以上生きられなくなってしまった。』
『‥』
『それが現代まで続いている。だけど,呪いも俺で最後。』
多哀は意を決した様に振り返って言った。
『俺が20歳で死ねば,天帝はやっと呪いから解放される。』
『‥。』
『だから俺は人と関わらないんだ。どうせ,あと二年の命だから。』
私はただ多哀を見ている事しか出来なかった。
呪いにはまだあまりピンと来なかったけど,それを聞いた所で,
私に一体何が出来ると言うのか。
多哀は戸惑う私を見て少し笑った。
『ありがとう,話,真剣に聞いてくれて。』
『え‥?!』
意外な言葉に焦った。
『初めは感じ悪かったけど,下内って案外,良い奴なんだな。』
『良い奴‥?』
実は私,こんな事初めて人に言われた。
今まで,自分程嫌な奴はいないと思っていたから素直に嬉しくなってしまった。
『‥ぃてやるよ。』
『ぇ‥?』
気付いたら,
自分でも驚きの言葉が出ていた。
『その呪い,お前が死ぬ前に私が解いてやるよ!!』
〇〇続く〇〇