『じゃあ、こちらから聞きたい事があるんだが』
無煙々草の先端の火を吸気に合わせて明るくさせながらロバート=ハートフォード戦事総司令官は問うた。
『何だってお前達は太子党と事を構えた?大事な決戦を前にして味方の士気阻喪する事甚だしいとは思わんか?』
テンペ=ホイフェ=クダグニンに回答に迷う理由等無かった。
『彼等の暴虐の前に、私の知り合いが殺されました』
大将は別段驚く素振りも悲しむ素振りも見せずに、煙なき呼気をゆっくりと吐き出し、
『ふん、友達―仲間か』
樹脂製灰皿に無煙々草を置いた。
『それだけで副領事の重職にあるあんたが、全軍を敗北させるかも知れない義挙とやらに手を染める積もりかね』
皮肉に満ちた台詞に、しかし不思議と毒気は無かった。
『このままフーバー=エンジェルミの暴走を捨て置けば、いずれ私達はパレオス自体を喪う事にもなりましょう―戦わずして』
共和国副領事の言葉は奮っていた。
ロバート=ハートフォードは、半ば感心げに目を細めた。
こいつは容姿だけでなく才知でもあの副官と姉妹分と来たもんだ!
『まあ俺は軍人だから、これ以上突っ込んだ事は本来言えんがな』
再びウィスキー水割りの入ったグラスに手を伸ばし、
『奴等がお縄を頂戴されて萎びれた姿が早く見たいとな―おっと、こいつは酒の上での冗談だ、忘れろ』
『忘れます』
テンペ=ホイフェ=クダグニンは笑いをこらえる表情で答えた。
さっきよりリラックスした様子で大将は水割を飲みながら、
『所でもう一つ―こいつは職業柄是非とも聞かねばならないのだが』
『何でしょう』
『貴国の機動部隊の増援を要請したい』
副領事は目を丸くした。
『はあ、正式な要請ならば検討の上、本国に打診してみますが―』
そこには一体何万光年離れてると思ってるんだとの本音が見え隠れする。
だが、大将の目は真剣その物だった。
『真面目も真面目、大真面目だ。何、来てくれさえすれば流石の帝国も継戦を断念するかと思ってな』
そこへ、大将と同じ軍服を着た男性士官が、二人の座る丸テーブルにやって来た。
ロバート=ハートフォードに敬礼をしてから、彼もテンペを見て驚いた顔を見せた。
ヘンリー=アレクサンダー参謀長だった。
『じゃ、今の件―よくよく考えといてくれよ』
そう言い残して、大将は参謀長と共に立ち去って行った。