オットーがアパートに帰ると、アヒムは既にキッチンテーブルの前に座っていた。
二人が住むアパートは、街の西に流れるヴェーザー川のほとりの街側に位置している。
二人は共に十四歳であったが、学校に通う金はなく、年齢的にも働き先すらもらえなかった。
そんな二人は盗みで生計を立てるしかなく、アパートの家賃や生活費をやりくりするので精一杯であった。
「今日は盗らないのか。」オットーが低い声でアヒムに問う。
「ああ」
アヒムはテーブルに両肘を置き、疲れ切った表情で俯いている。
「やばいぜそろそろ。十マルクしか残ってない。」
「…ジンクスだよ、ジンクスが問題なんだ。」
アヒムが小さな声でそう呟いた。
「ジンクス?それがどうしたんだ?」
オットーは訝しげにアヒムを見た。
「あのメロディを聴くと、俺はどうもダメだ。手が動かない。」
「でもあそこが一番盗み易いポイントなんだ。観光客は全員“結婚式の家の笛吹男”に夢中なんだよ。」
「それはわかってる…わかってるんだ…」
アヒムは声を殺して言った。
「お前この街に来てからおかしいぞ。あんな童話信じてるのか?」
「…そんなんじゃない。」