奇跡的にも、その日記帳だけがきれいに形を保っていた。
日記帳の最後の数ページ、次のようなことが書かれていた……。
5月 5日 水曜日
今日はどしゃぶりの雨だった。台風らしい。
ぼくの家は古いから、天井から雨水がたれてきて大変だった。
こどもの日なのに、どこにも行けなくてつまらなかった。
5月 6日 木曜日
今日の朝、庭を見たら、ぼくよりも年上のみかんの木がたおれていた。
きのうの台風のせいらしい。
もう、みかん食べれないのかな。
5月 7日 金曜日
今日は夢みたいな一日だった。
お父さんが当たった当たったと言っていたので、どうしたのときいたら宝くじに当たったと言った。
たくさんおこづかいをもらった。こんなにお金をもらったの、はじめてだ。
なにを買おうかな。
5月 8日 土曜日
今日はタロウくんたちと野球をした。
ぼくは走ったらおもいきりころんでしまった。
ズボンにいっぱい土がついてお母さんにおこられた。
5月 9日 日曜日
今日はとてもいい天気だった。
お日さまの光がまぶしくて目がいたかった。
とにかく暑い一日だった。
5月 10日 月曜日
今日の夜は、満月だった。とてもきれいだった。
だけど、なんだかいやな予感がする。
明日、なにか悪いことがおこるような気が……
少年の日記は、ここで終わっていた。
この日記を書いた少年は、突然の火事で死亡した。彼の家族も。
その火事が起こったのは、
5月11日、火曜日のことである。