子供のセカイ。167

アンヌ  2010-05-07投稿
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側にいた複数の侍女たちがうっとりと顔をほころばせるのに見向きもせず、覇王はカツカツと青い大理石の通路を歩いていった。
白い石灰岩の美しい柱が、高い天井を支えている。その間を抜けるようにずんずんと城の奥へ歩いていると、不意に前方に長い黒髪の少女が現れた。
「……覇王。」
「舞子。こんな朝早くからどうしたんだい?」
一気に相好を崩して笑いかけると、美しい白のドレスに身を包み、腕組みをした舞子は、表情を曇らせたまま覇王を見上げた。目の下に青黒く隈が浮いている。覇王は無意識にそこに親指をあてがおうとして、小さな手に阻まれた。
「どこへ行ってたの?」
「いつも通り、強制労働施設の見回りだよ。」
「……嘘。こんなに朝早くから見回りに行ったことなんて、今までなかったでしょ?」
覇王はますます笑みを深めた。これは偽りではない、心からの笑みである。舞子が少しでも知性のあるところを見せる時、覇王は妙な喜びを感じるのだ。
背の高い覇王は片膝をついて舞子に視線を合わせると、つかまれたままだった手のひらを逆に取って、恭しく額に押しいただいた。
「僕が君に嘘をつくわけないだろう?君は僕のすべてだというのに。」
歯の浮くような台詞を並べ立て、青色の目で真っ直ぐに舞子を見上げるが、舞子は複雑そうな顔で眉を寄せただけだった。これには、覇王は心の中で舌打ちした。
舞子が賢くなるのはいい。そうなればなるほど、覇王は些細なことでいちいち苛立たなくて済むようになる。しかし、知恵をつけることによって覇王に対する信頼が薄くなるのは、大きな問題だった。もちろん、舞子とてまったく成長しないわけではない。心の成長は止まったままでも、それなりに頭で学ぶこともあるのだ。
――例えば、覇王が舞子に嘘をつく時があるということなど。
「……お姉ちゃんを捜しに行ってたの?」
舞子はぽつりと呟くように問うた。
舞子のくまは、昨日今日にできたものではない。舞子の姉、美香が“生け贄の祭壇”に辿り着いた辺りから、少女の眠りが日に日に浅くなっていることを、覇王は知っていた。
睨むような、そしてどこか脆い舞子の瞳を見て、覇王は誤魔化しきれないことを悟った。
「……そうだよ。不穏因子は早々に片づけた方がいいと思ってね。」
舞子は肩をすくめて見せる覇王を、今度は本当に怒りのこもった目で睨みつけた。

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