合衆国機動部隊主力の出撃は七日間後の第一期一六日(修正太陽暦一月一六日)と定められた。
その準備に明け暮れる戦闘艦艇群を尻目に、ある二人の人物が同軍総旗艦D=カーネギー内で出会っていた。
『こんな所で君にお目にかかるとは思わなかったよ』
星間軌道公社特務・エンリケ=ガブリエルは大した感慨も込めずにそう言った。
ここは要人専用の展望フロアで、目には見えない遮音幕が幾つも張られている。
重要な談話にはうってつけの場所だ。
向かい合わせのソファーに座り足を組みながら、エンリケは壁外にて衝突防止用の安全灯を点けながら蠢く幾千もの軍艦に目を向ける。
人員や物資の積み込み、メンテナンスや護衛の為にそれに数倍する船や航宙艇がまとわりつく様にひっきりなしに飛び回り、まるで夜空を多い尽くしては乱舞する蛍の群れを思わせた。
『そうね。まあお互い日陰者って事かしらね』
反対側のソファーに陣取って、宗教界特務・安史那晶子が答えた。
その巫女姿は相変わらずで、暑いのか寒いのか、漆黒に金の縁取りの上着は脱いで膝に掛けてあった。
『それにしても、大掛かりな話よね』
晶子は呆れながら感心して見せる様子で、
『たかが辺境の軍乱一つに純戦闘艦艇二万隻―おまけに私達特務クラスを送り込むだなんて』
溜め息混じりにそう言って、パネルカードを操作する。
すぐさま車輪式のサーバントマシーンがやって来て、盆を兼ねた頭部に乗る冷たい飲み物を彼女は手に取った。
『機動部隊はどうでも良い―どの道この戦いは負けるさ』
エンリケは以外な事を口にした。
晶子はストローを吸うのを思わず止めて、
『随分と思いきった言い振りね。何か根拠でもあるのかしら?』
エンリケは首を左右に振りながら、
『帝国には天才がいるらしい―時空集約航法を応用して零距離奇襲攻撃をかけるつもりだ』
『その情報、連合艦隊司令部には伝えたの?』
伝えていない、伝える意味もないと聞いて晶子は麗貌を僅かに歪めた。
エンリケはそれをしばらく鑑賞する様子を見せてから、
『今の司令部要路にこの知らせを活かせるだけの人材は居ないよ。頭が固すぎるからな』
そして再び壁外へ目をやって、
『だから我々の存在が必要になる―艦隊敗北の暁には何としてもこの地を異端者共の楽園にしない為には』