私があなたに出会ったのは、偶然でもなく、必然的なものでもなかった。
店員と客。
そう…
ありふれた、関係だった。
私は、葉山 樹莉
(はやまじゅり)もう…いい歳だ。
同級生には、大抵子供がいる。
周りは、『悠々自適な人生』を送っていて羨ましいというが、歳と共に締め付けや責任、孤独がまとわりつく。
家の近所に Bar が開店して、いつか、こんな所に独りで行きたいと思っていた。
たまたま、親友の恵里に誘われて、そのBar に入る事ができた。
「いらっしゃいませ」
感じのいい中年のマスターが出迎えてくれた。
恵里の知り合いらしい。
「おぅ、恵里ちゃん!元気にしてたかい?」
「うん。元気過ぎてお腹も空いた!ジャーマンポテトとコロナビールと…あっ、海鮮サラダにアンチョビ焼き。樹莉何にする?」
「おいおい、恵里ちゃん。うちは、レストランじゃないぞ。先に飲物とそのお友達の飲物が先だろう。(笑)」
「だって〜!樹莉は?」「私もコロナビールを…」
人見知りな私は、何だか…恵里の明るさと勢いのある生き方が好きだった。
マスターがコロナを持ってきた。
「マスター!この子樹莉。小さいころからの幼なじみ。何だか、ここに独りで来たいんだって。」 恵里は、直球だ。
「あぁ、何時でもいらっしゃい。恵里ちゃんがいないほうが良かったりして…。」
「マスター!いじわるだなぁ」
二人のやり取りは実に楽しく、久しぶりに大笑いをした。
何度か恵里と通って、半年後…
私は、独りでそのBarに行ってみた。
そこには、知らない女性の従業員がいた。
「やぁ、樹莉ちゃん。今日やっと、独りで来たんだね。紹介するよ。妹の有希今日から、働くんだ…。」
「どうも…」
「よろしくお願いします。何にしますか?」
「えっと〜?モスコミュールを…」
彼女は、やさしい笑顔で話しかけてくれた。美人で少しきゃしゃだ。
彼女…有希さんは、私より2つ年上だった。
でも、歳を感じさせない真っ直ぐな性格の人だった。
私は、直ぐに仲良くなって、そこが私の行きつけになった。
ある日、私は有希さんに手紙をもらった。
家に帰り手紙を開くと…
『樹莉ちゃんへ
樹莉ちゃんとは、ただの従業員とお客さんでなく、本当の友達になりたいんだ。友達として付き合ってくれる?』
と書かれていた。
私の人生を導く大切な人になった瞬間だった。