「父さん。僕たちの名前ってどう考えてつけたの?」
僕は父さんに唐突に投げ掛けた。
「名前?あぁ、春って名前にした理由か?」
「うん。兄妹のどっちも季節が入ってるのって、どう考えてつけたのかなあって。」
「わたしも知りたい。」
「そうだな。春は穏やかな季節だろう?だからな、穏やかに育ってほしいから春だ。」
「へぇー。そうだったんだ。」
「んじゃあさ。わたしは?なんで夏来(なつき)なの?」
たしかに、穏やかな季節っていうより、暑い季節だしな。
「夏来かぁ。そりゃあ…」
「そりゃあ…何?」
父さんが少し言葉を止めたのに合わせて僕は聞き直した。
夏来も興味津々の顔で父さんを見る。
「そりゃあ、春の後には夏が来るもんだろ?」
朝、目が覚めると見慣れない部屋にいた。
そうか、もうワンダに引っ越したんだった。
懐かしい夢を見た。
だから春。夏来のことをちゃんと守ってやるんだぞ。
父さんが死ぬ前のころの夢。
こんな夢を見たのは、昨日ノックさんに事件のことを話したからだろうか。
血を流して倒れている母さんを見て気が動転した。
腰が抜けて倒れてしまったけど、なんとか救急車を呼ぶことはできた。
救急車が来てすぐ、母さんが死んでいることが確認され、警察が来た。
周りの景色が歪んで見えた。
全然頭が回らなかったが、警察が来てすぐに考えた。夏来はどこにいったんだ?そして、警察が家の中を調査中に、夏来が自分の部屋で死んでいたことが確認された。
すぐに確認に行こうとしたが、警察に止められた。
見るべきじゃない、と。
二人の葬儀の時さえ、夏来の顔を見ることもできなかった。
あいつを守るどころか死なせてしまった。
そういう意識や、自分以外に誰もいないあの家が辛くて、あんな雨の日に飛び出したのだ。
ノド渇いたな。
ワンダの一階のエントランスに自販機があったっけ。そう考えて、僕は財布を持って部屋を出た。