9月の旅行を1ヶ月前にして、いつものファミレスで、哲彦と義人と剛夫の3人が、ミーティングをしていた。
「剛ちゃんよ、今回は大丈夫なんだよな?」
義人の質問に、剛夫は、大きく頷いた
「なんとかね。その分、前後は連勤だけどね」
「そりゃ、俺も一緒だよ。まあ、哲ちゃんは違うけど」
「そんなことより、向こうでは、どう行動するんだ?俺は多分自由に動ける時間は、限られていると思うけど」
「それは、麻由さんがらみだろ?」
剛夫の突っ込みに哲彦は、否定せずに頷いた。
「そうだな…多分、例の子にも会うと思うけど…」
「例の子?もしかして、かすみさんのことか?」
「ああ…。一応な。行くってことを伝えたら、案の定、お前のことを聞かれたよ。『一緒に来ますか?』って。どうせ9月に行くって言ったんだろ?彼女と話した時に」
「もちろん。で、なんて答えたんだよ?…まさか、急用で来れないとか、言ってないよな」
「そんなこと言ってないよ!後は会うとしたら、お前と彼女次第だろ」
「そうだな…哲ちゃん、もう1つ聞きたいんだけどさ…」
「なんだよ?」
義人は、少し間を置いて聞いた。
「今回のこと、会社の人達には伝えてるんだよな?もちろん、あの子にも…」
義人にその質問をされて、哲彦は顔が曇った。
旅行に行くことは伝えた。
だが詳細は、義人達と行く以外伝えていないからである。
文子には、麻由やかすみの存在は伝えていない…
「伝えたけどな…詳細はな。お前らと行くってことくらいだよ」
「麻由さんには?」
「そりゃ伝えたよ
りおさんと同じ店なんだからよ。そんなごまかし出来ないよ」
「なら、いいけどさ…。正直、俺はりおさんに対する思いがあっても、お互いに従業員とお客様って意識があるんだよね…逆に、お前に対して、恋愛的な感情を持ってる麻由さんがいる…羨ましいよな…」
「そりゃ、お前が、いつものごとく、一歩引いてしまうからじゃないのか?お前は、お人好しだからじゃないのか?」
「だろうな…。洋食屋の子にも伝えたよ。行くことは。気がついたら、彼女とのメールのやりとりが一番多かったよ。…なんか、それぞれの秘めたる思いは、うまく伝わらないなあ…」
「そうだな…」
義人の意見に、哲彦は、短く頷いた。
傍らで、剛夫は黙って聞いていた。