「そうですか…それでこの活動を承知してくれたんですね」
ザックは納得したように頷いた。
「それともう一つ」
エナンは人差し指を立てて、
「私やダリルが次男である、という事です」
と、言った。
「あ…そうか、跡継ぎがいるから…!」
「そうです。次男坊ですから私やダリルにもしもの事があっても農家は続けられますからね」
「でも…それなら死んでもいい、という事にはならないよね…」
傍で二人の会話を聞いていたミーナはポツリと呟いた。
「…ミーナ…」
「何でもない。それじゃね!」
彼女はザックたちから目を逸らして、足早に林から出て行った。
「…ミーナはあの事件から二年が過ぎた今でも苦しみ続けているんです…」
エナンは悲しみを帯びた顔で、小さく息を吐いた。
「…」
―そうか…あの表情は…。
ザックは度々起こるミーナの変化の正体に今頃になって気付いた己を恥じた。
夕日の朱が林を包み込んで、木々を真っ赤に染め上げようとしていた。
同じ頃、フードを目深に被ったメディナがエルム村の入り口に立っていた。
「ここか…」
そう呟き、彼女はフードを外した。
住民に不信感を与えないようにするには姿をなるべく晒す。これが彼女の調査のやり方であった。
彼女は燃えるような赤い髪をなびかせながら、鋭い眼差しで辺りを見回した。
―ごく普通の村ね。戸数はだいたい二十前後。平均よりやや小さいかしら。
そう分析して、素早くメモをとる。
―田畑の実り具合は良好。税の徴収による不満は特になし…か。
「ここに彼女が居れば一番いいんだけど…」
メディナはそう呟いて、剣を外し近くの茂みに隠した。