怒りが頂点に達していたため、その時は聞こえていなかったのだが、後にして聞くと春之の怪我は骨折などだけではなかったらしい。
春之のお母さんが言うには、脚や腕の腱の損傷などもあったらしい。
私は怒りに任せて病院を飛び出した。
犯人は多分相手選手、もしくはその親であることは予想がついていた。
だが、私はそいつらを痛め付けられない。何故なら証拠が無いからだ。
私は無力な自分を悔やんだ。
自分を情けなく思い、泣きそうになりながら走っていると誰かにぶつかった。
前を見ていなかった自分が悪かったので謝ろうとしたのだが、怒りのせいか全く声が出なかった。
私が黙っているのを見て、不良らしき男三人はいらついて、
「おい、お前。人にぶつかっといてだんまりかよ!」
何でこんな奴らが平気な顔して歩いているんだろう。
「・・・・・・さい」
私の大好きな人は今大変な事になっているのに。
「あぁ?良く聞こえねぇ」
何でこんな奴らが健康体でいるのよ!
「五月蝿いって言ってんのよ!」
その時、私の中に溜まっていた怒りが爆発した。
そしてこの時から、私の力は強くなっていった。
怒りに任せて暴力を振るっていると、不良達は仲良く気絶していた。
私の暴力事件はこの後も続き、春之が退院した直後、私は春之に叩かれた。
「何してんだよ!そんなのは俺の敵討ちでもなんでもない!ただの暴力だ!」
私はこの時、してはいけない過ちを犯してしまった。
・・・・・・五月蝿い。
「五月蝿い!」
叫び声と共に私の拳は春之に向かって飛んで行った。
だが拳は春之に掴まれ、私は左頬を叩――れなかった。
その代わり春之は私を優しく抱きしめてくれた。
「もういいんだ。俺はもう大丈夫だから。だからもういいんだ」
私はその声を聞いて涙が零れそうだった。だけどこういう時こそ笑った方が良いんだよね。
私は涙を堪えて今自分の精一杯の笑顔を見せた。少し顔が引き攣っているかもしれない。でも私は笑って言った。
「お帰り、春之」
そんなこんながあり、私は強くなった。だが病み上がりでスポーツが出来ないとまで診断されたはずの春之の平手に全く反応出来なかった。
それは不意打ちだからとかではない。
春之の平手が早過ぎて見えなかったのである。
春之を怒らせてはいけない。何故なら――
――春之が一番強いからである。