マネキン人形は、いつも思っていた。
デパートの服飾売り場に立ちながら、
…なぜ私は、動けないんだろう。
姿かたちは皆なと一緒なのに、なぜ喋れないんだろうと…。
「人間になりたい。」
しかしその叫び声は、誰にも届かず、やがてデパートは不況のあおりを受けて倒産する。
…ゴミ捨て場に打ち棄てられた、マネキン人形。
その近くへ、一人のホームレスの男がやってきた。
「人間になりたい。」
「え?。」
彼は驚いて見回したが、周りには誰もいない。
「なんだ、空耳かよ。」
再び手を動かし、そこから使えそうな物を探りだした。
「人間になりたい。」
やがて両腕を掴まれ、その『声』がハッキリと聞こえたとき、ホームレスの男は人間ではなくなった。
頭から皮膚が剥がされた、剥き出しの臓器の姿となって発見されたという。
…落ちていたはずのマネキン人形は、どこにも見当たらなかった。
(終)