「信玄と政虎が手を組むことに意味があるのだから、その一事に執着するべきだったのだ。
だがオマエは私情から平常心を失い、判断を誤った。
…いいか半次郎、世を変えるということは、そこに存在する人の心を変革させるということだ。
それに必要な能力はただ二つ、人を正しく導く判断力と私事のない心。
剣や気の力では、決して人の心を導くことはできない」
ノアの言葉に、半次郎は交渉決裂した時の事を省みていた。
『あの時の私は感情に支配され、冷静さを失っていた。
つまりは、その二つを欠いていたということか……」
その結果、無数に散っていった将兵達の命を無為にしてしまった。
後悔と自責の念に苛まれる半次郎。
「……私に、人を導くだけの素質はなかったのですね」
肩を落とす半次郎。
「違うな、オマエが欠いていたのは素質ではなく経験だ。
そもそも二十歳にも満たないコゾウに、世を変えろというのが無理な話なのだ」
だが、経験を積むには時間が必要であり、それを待ってくれるほど、時代のうねりは優しくなかった。
「実体験だけが経験を積み重ねる手段ではない、知識から得られる経験もある。
……オマエに、シャンバラの興亡史を語ってやる、そこから必要な知識を学び取るがいい」
驚いてノアをみる半次郎。
「…よろしいのですか、私などにシャンバラの話をしても?」
「オマエが静の気……サイレント・オーヴの使い手であり、その力量が人の域を超えている以上、むしろ話しておく必要がある。
それに、オマエならばむやみに他言したりはしないだろうからな」
そういって、ノアは微笑んだ。