航宙機動部隊第四章・38

まっかつ改  2010-05-15投稿
閲覧数[581] 良い投票[0] 悪い投票[0]

駆け付けた憲兵や船内警備や野次馬達で、その立体帯磁軌道発着場はごった返していた。
規制線の張られた内側では二人の男性が湯気を立てて床面に倒れていた。
片方は俯せに、もう片方は仰向けに―\r
床面にこびりつくレバー色の塊が、事件から経過した時間を物語る。
リク=ウル=カルンダハラ最外縁総領事は、先程一挺のハンドレイと六挺のプラズマ小銃で滅多撃ちにされた所だ。
彼は二人の被害者の一人として、野次馬達の見物に晒されている。
だが―朧気ながら、彼は意識を取り戻していた。
(俺は死ぬのか?)
少しだけ見開かれた目はぼんやりと構内の天井に向けられたままだ。
(太子党やフーバー=エンジェルミの良い様にやられて一矢も報いないまま俺は死ぬのか?)
頼りないながらも感覚を取り戻した耳には、見物人達の興味本意のざわめきとそれを押し戻そうと指示を出す憲兵達の声が遠くからの木霊の様に響いて来る。
リクは少しだけ顔を上げてみた。
するとそこには自分の上体を手前に、案の定の光景が広がっていた。
どうやら麻薬中毒者達は止めを差さずにすぐに逃げたらしい。
その証拠に、規制線よりこちら側に憲兵か船内警備が集めたのだろう―連中の使った得物が纏められて置いてある。
しかし、とリクは思う―\r
このまま死ねば正に無駄死に犬死にもいい所だな、と。
天国とか地獄とやらに行っても先に向かっただろうマエリーにどの面下げて会えるのか、と―\r
それでも教練が身に染みているのか、彼はそのまま全身をまさぐってみた。
(あれ?)
触った限りは不思議と傷らしきものは無かった。
(あれ?)
それ所か、出血の形跡すら無く、更に彼の着る鮮やかな青い旗袍に至っては、綻び一つ無い。
思わず彼は上身を起こした。
そして自分の後ろに倒れる私服憲兵の様子を見たが、こちらは裏切者による銃撃を確かに喰らったらしく、背中に空いた赤紫の穴や床に張り付いた乾いた血液がそれを雄弁に物語っていた。
大勢の驚きの声に包まれながらリクは立ち上がり、再び両手を使ってぽんぽんと叩きながら体の状態をチェックする。
そして考えた。
(奴らが狙ってるのは俺だけじゃない―テンペも危ない)
そのまま走り出した彼の背中に、憲兵の制止や野次馬達の歓声が投げ掛けられた。
その胸にはあの黒翡翠が金糸で垂らされながら左右に揺れていた。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 まっかつ改 」さんの小説

もっと見る

SFの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ