悲鳴が聞こえる。
悲痛な叫びが朱い空に響く。
人の腐った臭いと魔力の放たれた後の独特の空気が、辺りに立ち込める。
体が動かない。
魔力の遣いすぎだ。
右手に在る剣に力を篭めるがなんの反応もない。
いつも魔力に溢れているこの剣も今はただの鉄塊と化していた。
男の遥か後方で蒼い閃光が走った。
どうやら撤退命令が出たらしい。
「今更おせえんだよ」
男は悪態をついたが、それに答える者はいない。
「くそ」
男は再び悪態をつき、血で朱く染まった荒野を歩きだした。
男の名はクライス、後に第参次魔法大戦に参加し歴史のひとピースとなるべく、その身を賭して戦うことになる人間の一人だがこの時はまだそんなことは考えもしてはいなかった。