アスファルトは奇妙に揺らめいていた。
静雄は首に掛けたタオルで
顔を拭く。タオルが湿っている。
いくら夏だからといって、今日の暑さは異常だ。
右手に持ったハガキも湿っている。白が目にしみる。
視線の先には、
これといったものがなく田んぼや樹木ばかりで、
ぽつん ぽつんと見える民家は、
瓦屋根を重たげにあたまにのせ、この身を焼く陽射しにただじっと沈黙するばかりだった。
美夏子がハガキを寄越したのは、つい三、四日前のことで、小学校以来ここを離れた静雄は散々首をひねった挙げ句、引き出しの名刺やら手紙やらを引っ張りだして、
やっと昔の名簿から名前を見付け、ぼんやりと思い出したのだ。
こんなやつ居た。
ような気がしたかな。程度に。
−拝啓、成瀬 静雄様
暑中見舞い申し上げます
また是非とも遊びにいらしてね
つぎは、−−-日に。
夫も愉しみにしてますし、
静雄さんの好物のスイカジュースも用意してありますから
お昼ご飯でも食べましょう
待っていますね
−敬具 野尻 美夏子
全然覚えていない同級生だった。
なぜ自分にハガキを寄越したのか、美夏子がなぜ静雄の住所を知っているのかも分からないが、
ハガキの内容は更に奇妙だった。
・・・・・
静雄は美夏子の家に、一度も行っ・・・・・・
たことはないし、美夏子の夫なんて知らない。しかも静雄がスイカジュースを好きになったのは、
高校一年生の時だった。
どうして美夏子が知っているのか。
気味が悪い、そう思ったが、
静雄は得体の知れない興奮が内にあるのを分かっていた。
肝試しのような、そんな感覚。
ゾンビ退治のゲームのような。
恐怖心と、好奇心、
怖いもの見たさ。
そういうものが、静雄は昔から大好きだった。
大人になり味わう事が少なくなってきたそれを、静雄の心は求めずにいられなかった。
少年に戻れる瞬間を逃したくなかった。
静雄は机の傍にあるペンを持ち、カレンダーの前に立った。そして日曜日の日付をぐりぐりと、丸く囲った。
美夏子とは、どんな人物に育ったのだろう。
夫は、どんな奴なのか。
アスファルトの白線が
地面を這っている。
パキッ、と何処かで音がする。
静雄は足元を見た。
黒焦げたミミズの死骸が散らばった。