覇王は動揺を隠しつつ、何食わぬ顔をして剣を鞘に納めると、カツカツと靴音を鳴らしながら二人に近寄った。すっとしゃがみこみ、舞子の肩に手を置く。
「まずはこの者を回復させた方がいい。君ならできるだろう?」
舞子はようやくそのことに気づくと、覇王を見上げ、ぎゅっと唇を噛み締めて頷いた。
アリアの額の上に右手をかざす。そのまま顔の表面を撫でるように手のひらを宙にすべらせていくと、頬は元通りふっくらとした形を取り戻し、歪んだ歯列も整えられた。
さらに首から胸、腹から足にかけても同じようにすると、女の傷はすっかり癒えた。少なくとも、表面上は癒えたように見えた。本当は手などかざさずとも、舞子は想像したものを現実に変えることができる。ただ、そういうアクションを行うことで、より正確に想像を呼び起こすことができるのだ。
舞子は見た目が治るように想像するのと同時に、強く目をつぶると、体内の傷も塞がるところを思い描いた。こうしなければ本当に傷を癒したことにならないというのは、“子供のセカイ”に来てから三年の間で学んだことでもあった。
舞子と覇王は、まったく別の気持ちで、仰向けに横たわるアリアの白い顔を固唾を飲んで見守った。やがてアリアは、長いまつ毛を震わせ、瞼をゆるりと持ち上げた。
赤い瞳が天井を見て、次に傍らの覇王、そして舞子へと向けられた。
舞子の姿に目を留めると、アリアはうっすらと微笑んで、呟いた。
「舞子様……。」
その表情は平常の刃物のような顔つきとは打って変わって、幸せに満ちていた。夜羽部隊は確かに歪んでいるが、この歪みは舞子の前では現れない質のものだった。故に女たちは舞子が最初に想像した通り、強く美しく、なおかつ絶対的に舞子を慕っている。
「アリア…!」
舞子がホッとして泣き出しそうになったのを尻目に、覇王は直ぐ様アリアの肩をつかんで軽く揺さぶった。
「一体誰にやられた?美香と耕太か?」
聞き慣れた二人の名前に、舞子はびくりと顔を跳ね上げて覇王を見たが、覇王は見向きもしなかった。もはや覇王にも余裕はなかったのだ。
アリアはゆっくりと舞子の膝から頭を起こすと、覇王を冷めた目で見つめた。冷めた、というよりは、舞子以外の人間を見る時の、何の感情もこもっていない目だ。
「いえ。私は、ミルバにやられました。」