チンゲンサイ。<40>

麻呂  2010-05-19投稿
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* * * * * *

学校に着くと、俺達夫婦は、まず始めに職員室へ向かい、


ユウの担任の本橋と言う教師に挨拶をした。


『山田ユウの親です。

うちの息子がいつもお世話になっております。』



『いえいえこちらこそ―――』



40手前の俺より、遥かに年上に見えるその男は、


おそらく教師という職業ではベテランの域に達しているのだろう。


突然の、教え子の保護者の訪問にも、全く動揺する事もなく、


落ち着いた表情で、俺達夫婦を来客室へ案内した。



『ほっほっほ‥‥。
近頃の子供達が、自己表現の下手な子が多い事は、

私どもの頭を悩ませている一因でもありましてね―――』



『それでは、先生は、うちの息子に対するクラスの連中の様々な嫌がらせは、

“イジメ”ではないとおっしゃいたいのですか?!』



ここで引き下がっては、今日ここへ来た意味がない。


まさに、絵に描いたような、“テキトーな教師”が相手ならなおさらである。



『いえ‥‥そうではありません。

イジメる側とイジメられる側の意識の違いに目を向けてみますと、

その行為自体を、

イジメる側は、“イジメ”と認識していないのに対し、

イジメられる側は、“イジメ”と認識してしまう。

そういう例は、幾つか拝見させて頂きましたが、

子供同士のイジメ問題とは、まさにその程度の単純なものが多いのですよ。』



担任の本橋の話を聞き、俺は絶望的な気分に陥った。


おそらくこの教師には、正義感などというものは無いのだろう。



バカバカしい。



さっきから1人で熱弁する自分が情けなくなった。


こんなクソみてぇな教師に、自分の息子を守ってもらえる訳がない。


クソみてぇな上司に、クソみてぇに扱われてきた俺だから、

クソみてぇな教師や生徒から、


クソみてぇに扱われている息子の気持ちを考えると、


はらわたが煮えくり返る。



その時、俺はある行動に出ようと考えていた。


感情的になりかけていた気持ちを、ひとまず落ち着けようと一呼吸おき、


隣に座るユキエに目を向けると、


そこには、


今まで見た事のない険しい表情で、本橋の顔を睨みつけている妻の姿があった。



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