ノアからの信頼をえて、半次郎は何時になく心が踊るのを感じていた。
今までにも人から信頼や共感をえて、気持ちの高揚を覚えたことはあった。
だが、この神秘的な女性からうけた感覚は、今までのものとはどこか違って思えた。
それが儚い恋心であった事に気付き、半次郎がそれを懐かしんで振り返るのは何年も後のことである。
ノアは蒼天の空をおもむろに見上げた。
「……造り物ではあったが、シャンバラにも太陽は存在する。
だが、陽光はあってもあのような蒼い空はなかったな」
そして彼女は語り始める。
地上では語り継がれることのない、幾世紀にも連なる地底の亡国の記憶を。
シャンバラの始祖達が何者で、どういった経緯で地底の空間を見つけて移り住んだのか、その多くが語り継がれてはおらず、その答えは歴史のはざまに埋もれたままだと、ノアは語った。
ただ、彼等も元は地上人と起源を同じくする事と、地上の事には関わってならぬという禁忌だけは語り継がれていた。
彼等は何もない暗闇の空間に、一大都市を築くだけの文明をもってその地に移り住んでいた。
その文明はシャンバラという鎖された地底国で熟成され、永い年月を経て洗練された科学技術を生み出した。
その中で、科学者達を魅了する禁断の技術が産声をあげた。
遺伝子工学である。