思い出す
初めて恋をした頃を
僕にもまだこんなに人を好きになる力があった
何年ぶりだろう
十五年ぶりかな
最近では溜息も増えたし食欲は落ちた
何だか情けない気もした
君を職場で見かけるだけで胸が切なくて
目が合えば胸が痛んだ
挨拶を交わした日は胸が弾んだし
少しだけでも会話が出来た時は君で一杯になった
『今度ご飯でも行きましょう』
君の社交辞令かもしれない誘いを僕は真に受けた
もちろん君はその約束を実現してくれた
その日を糧に毎日をやり切れた
君は良く笑う
見た目からは大人しい印象を受けるのに君は良く喋った
楽しくてたまらなかった
何よりも君の優しさを感じた
沈黙を作らない様に
退屈にさせない様に
きっと君は沢山気を使っていたはずだ
やっぱり好きだよ
初めての食事の味は正直覚えていない
緊張していたし
ずっと見ていた君が目の前にいる
夢の様な時間だった
次がなくてもそれはそれでいい
そんな事まで思える程あの時間が嬉しくて素敵だった
時間を気にしてくれたのは君だった
少し残念そうに席を立つ君の手を握りたかった
君にまた会ってと言いたかった
君に好きだと言いたかった
でも言えなかった
迷惑になる事くらい分かっているから
昔の様に何も考えずに進めたら
思うがままに進めたら
誰も傷つける事なく君の事を好きでいられたら
『また行きましょうね』
優しく笑う君を抱きしめたかった
一人の帰り道
久々に泣いた
何故だかは分からない
ただ無償に哀しくて君にまた会いたくて
そして抑える事でしか許されない君への想いに腹が立った
いい大人になってからの初恋
こんなにも苦しい
君の存在が大きい
だからこそ君を傷つけてはいけない
今が楽しければなんて
そんなの許されない
また明日からは君を見れるだけでいいんだ
四年前
君がこの職場に入って来た
同じ部署の隣の課に
緊張した表情で挨拶をする君に見とれた
背が小さくて髪は栗色の長いストレート
色が白くて華奢な君
胸の奥が熱くなるのを感じた
そうだね
初めて会ったあの日から
僕の恋は始まっていた