大きな弧を描いてスタンドに入ったボールは、刻士舘には歓喜を、昂南には絶望を与えていった。
光は次のバッターを押さえたが、昂南が点を取ることは出来なかった。
光は誰とも顔を合わせずに球場を出た。皆の視線が痛かった。早く責任から逃げ出したかった。
「おい待てよ、光!これからミーティングが始まるぞ」後ろから武司に呼ばれても返事をせず、背を向けたままだ。
「誰もお前の事を責めちゃいないぜ?無駄に責任感じるなよ」
それでも振り返ろうとしない。
「いい加減、なんか言えよ!」武司の大きな右手が光の右肩を掴んで、こちら側に向けようとする。
「放せよ!」
光が突然声を出したせいで武司は怯んだ。光は武司を睨みつけながら叫ぶ。
「先輩は高校での3年間を俺に託したんだよ!俺を信じて託してくれたんだよ!・・・なのに・・・負けたんだ。どんな顔して謝れってんだよ」喋り終わる頃には目を落としていた。
「・・・・託されたんだろ」
「え?」
「先輩達から託されたんだろ!なんで逃げんだよ!負けたら逃げんのか!?合わせる顔が無いってか!?ふざけんな!!責任から逃げてるだけだろ!!」
光は言い返せなかった。武司の言っていることが間違ってないからだ。
「先、行くからな。早くこないとミーティングが始まっちまうぞ」武司はそう言って歩き始めた。
光は球場脇の広場に一人だけ取り残されていた。
―どうすればいいんだ?―心の中で自問自答していた。
―まず・・・・謝ろう。それからだ―\r
走り出す。不思議と迷いはない。むしろ吹っ切れていた。はるか向こうに真野先輩の背中が見えた。