本当は食べてきたばかりだったが少し話を紛らわせて、この暗い雰囲気を変えたかった。
丈 に元気を出して欲しかった。
長年、連れ添った相手と別れる事は物凄く辛い事だ。
ただ 今は少しでも 丈 を支えてあげたかった。
丈 の事が好きだから、出来るだけ早く立ち直って欲しかった。
香 は「オススメ」を2つ注文した。
アンブレラ、オススメのオムライスが運ばれて来た。
香 はすぐに食べ始めた。
しかし 丈 の様子がおかしい…
香 は、急いで席を立つとマスターに「救急車を呼んで欲しい」とお願いした。
マスターは事情を察知すると、すぐ救急車を要請した。
香 は席に戻り 丈 に声を掛けた。
丈 は「大丈夫、大丈夫」と無理をしながら「アンブレラに迷惑が掛かるから」と言って席を立った。
香 も続いて席を立った。
丈 は2〜3歩、歩いた所で止まった。
香 が支えようとした時 丈 は前へ倒れ込んだ。
香 は 必死で 丈 を掴んで抱き抱えた。
その時、救急隊が入って来た。
丈 をすぐに救急車に乗せると病院に向かった。
病院に着くとすぐに処置室に入った。
香 は待合室で祈るような思いで待っていた。
暫く待っていると看護師が呼びに来た。
看護師「安野さんの奥さん。」
香 は返事をしなかったた。
看護師は 香 の前まで来て
看護師「安野さんの奥さん。」
再び声をかけた。
その時、初めて自分の事だと気づいた。
看護師は勘違いしていたのだ。
香「は、はい。」
看護師「奥さん。先生から、お話しがありますので、こちらの方に来て下さい。」
香「は、はい。」
香 は看護師の後をついて行った。
部屋に入ると先生が座っていた。
先生「奥さん。どうぞ、こちらに座って下さい。」
先生まで勘違いしていた。
先生「奥さん。残念ですが、旦那さんは癌です。それも悪性の末期癌です。」
香 は一瞬にして凍りついた。
香「が、癌…」
先生「はい。余命は後、1年ほどでしょう」
つづく