第九話 優と杉本
【何故、彼らは自分達の拳銃ではなく尖った棒で人質を取ったのだろうか?】
杉本の脳裏には先ほど初めて京都と雪野と対峙した時の事がよぎっていた。
確かにそうだ、わざわざ棒で首元を押さえなくても拳銃を突き付けた方が圧迫感を杉本らに与えることが出来たはず………さらに言うならば警官が雪野の緊迫を解いて京都が鳩尾に警棒を当てたときに警棒ではなく拳銃で押さえれば安全で確実だったはずだ。
その一点の疑問だけが頭から離れなかった杉本はあれから百木の所を離れ単独で優のところに向かっていた。
京都の一番親しい友人の名として長良と優が挙げられたのだ。なぜ同級生の長良ではなく優のところに行ったかというと単純に京都が雪野を連れ出したあと長良は京都と会っていないからだ。
すぐに警察が優の家に行き話を聞くと優は………
『京都にはいつでも上がれるように家の鍵を渡してあったからもしかしたら俺がいなかったときに上がっているかもしれない』
と、答えたので警察は家宅捜査だけで終わらせていた。
その結果、優の服と優の彼女の服が一着ずつ無くなっていたことが分かった。それについては先程の京都達を見たら一目瞭然だったが、警察がよく分からなかったのは、早く逃げたいはずなのに湯船に湯を張って挙句には温泉の素を入れている理由が分からないのだ。
まぁまさか雪野が生ゴミまみれになって絶対に体を洗いたかったとは、誰もわからないのだろう。
しかし、それ以外では何も出てこなかったので警察は京都達が優の家に部屋に服を替えに来ただけと処理をして優の共犯説は打ち消されたのだ。
その資料を読み終えると杉本を乗せたタクシーは優のアパートに着いた。
「確か彼は大学生だよな。大学生でいい所に住んでるな〜」
杉本は、今の不景気とは関係なくいい所に住んでいる優に少し羨ましい感じでアパートを眺めていた。
杉本はアパートのポストを見て優の部屋まで行った。ドアを軽くノックすると優の不機嫌そうな声が聞こえてきた。優がドアを開けると京都たち同様扉に片手をたたきつけて現れた優に雪野と同じくビビるのかと思いきや流石肩書きエリートの杉本はビビることなく警察手帳を見せて事情を話した。
何度も警察から事情を聞かされ、流石に断られると、思ったが、優はすんなりと招いてくれた。