秘密の恋をした。
あの日、私に優しく微笑んでくれたあなたに。
私はまだ小さかったけど、確かにあの日、私の胸の中であなたへの恋は始まったの…。
†
「お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっってば!!起〜き〜て〜!!」
毎朝の恒例行事。
私の第一声で、ウチの中は動き出す。
「ほらぁっ!早く起きないと、ご飯食べる時間無くなっちゃうよ!?いっつもお兄ちゃんが言ってんじゃん!朝メシはキチンと食べろって!!」
布団にくるまり、モゾモゾと身じろぐそのお尻の辺りをペシンと叩く。
「……もう少し…寝かせて………」
掠れたような、くぐもった声。
………私だけが知ってる、大好きな声。
はぁ〜、とため息をつく振りをしてもう一度、今度は強めにベシンと叩く。
「もぅっっ!ホントに起きないと学校、間に合わないよ!?私、後は知らないからね!?先、ご飯食べてるから!!」
そう言ってくるりとときびすを返し、ドアノブに手をかける。
「……今、オキマス。………ありがとな、雪月花(せつか)」
ドアが閉まる瞬間、お兄ちゃんの声が聞こえた。
†
「いやぁ〜んっ♪セッカぁ♪♪見て見て〜♪今日も生徒会長殿、最高カッコイイ〜!!」
「は‥初音ちゃん、ココ教室…。もちょっと声、小さく…小さくね?」
教室の窓から柔らかな春の陽射しと共に、校庭のざわめきが微かに聞こえてくる。
窓際の後ろの席。
居眠りとひなたぼっこ。
そして…大好きなあなたを、心おきなく見ていられる特等席。
「なんだぁ〜?反応悪いなぁ〜?セッカってば。…まあねぇ。セッカは会長殿の妹だし?あ〜んな姿もこ〜んな姿も見放題だもんね。今更教室で爽やか〜な会長殿を見たところで、なんとも思わんか。…羨ましいのか、憐れなのか…。ね?」
「兄妹って言ったって………義理……だもん…………」
初音ちゃんに聞こえるかどうかの小さな声で、つぶやく。
「はいはい。よ〜く知ってます!あんたとアタシ、何年の付き合いになると思ってんの?」
ぐりぐり☆
おもいっきり、頭を撫でられる。
そう、初音ちゃんとは幼稚園の頃からの大親友。 だから知ってる。
ウチのママと、お兄ちゃんのパパの再婚。
私が小学1年生の夏休みのコトだった…。