…私の夢は女優なの。
例えば由緒ある舞台の上で、歴史上の物語を演じる女優。
または銀幕の向こう側で、悲劇のヒロインを演じきり、観客の涙を誘う女優。
「それは素晴らしいですね。貴女なら、その両方も目指せるでしょう。」
そのタキシードの男は、言いながら私の手を取った。
…顔は見えない。
白い仮面に隠されたそれは、まるで蝋人形のように表情すら解らない。
「でもね。貴女にはもっと向いているものがあるのですよ。」
男は言葉を続けた。
「それは私の花嫁になることです。お望みとあらば女優の姿のままでも構いませんよ。」
その『申し出』に、私は首を振って応えた。
「嫌だわ、そんなの。私は誰のものでもない。みんなに愛される女優になりたいの。」
「そうですか…。」
男は切なく、憂いに満ちた瞳で私を見た。
「しかし、もう遅かったですね。貴女は永遠に私の花嫁なのですから。」
…その仮面が、ゆっくりと外される。
下から除くのは、血走った両眼と、狂気に歪んだ口元。
…しかし、抗うこともできず、
私は黙って、男の顔を見つめていた。
彼の用意した『舞台』の上に血まみれで、手も足もなく寝かされながら…。
(終)