アクトレス

三毛乱次郎  2010-05-25投稿
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…私の夢は女優なの。

例えば由緒ある舞台の上で、歴史上の物語を演じる女優。

または銀幕の向こう側で、悲劇のヒロインを演じきり、観客の涙を誘う女優。

「それは素晴らしいですね。貴女なら、その両方も目指せるでしょう。」

そのタキシードの男は、言いながら私の手を取った。

…顔は見えない。

白い仮面に隠されたそれは、まるで蝋人形のように表情すら解らない。

「でもね。貴女にはもっと向いているものがあるのですよ。」

男は言葉を続けた。

「それは私の花嫁になることです。お望みとあらば女優の姿のままでも構いませんよ。」

その『申し出』に、私は首を振って応えた。

「嫌だわ、そんなの。私は誰のものでもない。みんなに愛される女優になりたいの。」

「そうですか…。」

男は切なく、憂いに満ちた瞳で私を見た。

「しかし、もう遅かったですね。貴女は永遠に私の花嫁なのですから。」

…その仮面が、ゆっくりと外される。

下から除くのは、血走った両眼と、狂気に歪んだ口元。

…しかし、抗うこともできず、

私は黙って、男の顔を見つめていた。

彼の用意した『舞台』の上に血まみれで、手も足もなく寝かされながら…。



(終)



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