「雪月花ちゃん、ママね、再婚しようかなと思うの」
いつも通りの夏休みの朝、コーヒーを飲みながら、ママが急にそう言って私の顔をのぞき込んだ。
「雪月花ちゃん…どう思う?」
どう思う?と聞かれても…。
「パパ…、欲しくない?」 二重に聞かれる。
ママのちょっと心配そうな顔。
そんな顔を見たくなくて、ただ、うなずいた。
私のパパは、私が2才の時に亡くなったそうだ。
急性しんきんこーそく。
会社でカイギ中、突然のコトだったらしいって、今では知ってる。
それからママは、女手一つで私を育ててくれた。
それまで専業主婦だったママは、いっぱい頑張って勉強をして試験を受け、看護師になった。
私との生活を守るため。
そして、パパみたいに苦しむ人の力になってあげるため…。
そんなママが、初めて私に<再婚>の話をした。
良い人なのかな…?不安が胸いっぱいに広がったけれど、その時はただうなずくしか出来なかった。
†
「…雪月花ちゃんだね?はじめまして」
初めて逢ったその人は、私の目の高さまでしゃがみ込んで、優しく微笑んだ。
一瞬で安心させるような、そんな笑顔。
「楽しみにしてたんだよ?写真では君のママによく見せて貰ってたんだけど…。
ママの言う通りだな。実物のほうが何倍も可愛いね」
にこにこしながら、私の頭にポンと手を置いて、優しく撫でてくれる。
(この人がパパになる人…。優しそう)
ほっと肩の力が抜けた。
その時だった。
「とーさん!この子?俺の妹になる子って」
ひょっこりとその人の影から、顔を出した男の子。
私はビクッとして、急いでママの影に駆け込んだ。
「ふ〜ん、この子かぁ」なんて言いながら、影に隠れた私をのぞき込んでにっこり笑う。
「俺、橘 疾風(はやて)。これからよろしくな!俺のほうがおまえより早生まれなんだって。だから俺のほうが兄ちゃんね!これからは何かあったら俺に言えよな!俺が守ってやる!!」
元気な言葉使いと、優しいその笑顔。
まだ小学3年生の私は、この時胸の中で跳ねた心臓の音が恋だなんて知らず。
けれど、頬の赤みはあなたを意識していた……。
そう、私は一瞬であなたに恋、していたの…………。