この研究部門が設立された目的は、医学的観点から人体の構造を知ることにあった。
何世代にもわたり引き継がれることになるこの研究は、やがて遺伝子という身体の設計図の存在にたどり着く。
更なる研究の結果、科学者達はこの難解な設計図の解明に成功した。
これにより、遺伝による疾患の根絶や抗体を作り出す技術の確立などの成果をあげ、シャンバラの医学力を飛躍的に向上させた。
それで、当初の目的は達したはずであった。
だが、当事者達はそれで満足することはなかった。
遺伝子を発見し、その仕組みを解明する課程において、配列の組み替えによって人体の構成がかわる事と、全ての動植物に遺伝子が存在する事を、シャンバラの科学者達は解明していた。
そして、クローン体の創成に成功すると、彼等の研究は狂気の宴へと変貌していく。
科学者達は修得した知識の全てを導入し、人の限界を超えた個体を作り出そうと狂奔した。
彼等はまるで子供が粘土遊びに興じるが如く、想像のおもむくままに作品を作り上げていった。
外界との関わりを鎖した地底の共和国シャンバラにとって、科学技術の向上は存続していくための手段であり、また心の拠り所であった。
それに携わる科学者はこの国で最上位の存在であり、彼等の行動に掣肘を加えられる者は、誰一人として存在しなかった。
とめる者もなく、倫理すら見失ったシャンバラの科学は、もはや暴挙でしかなくなっていた。
科学者達の暴挙は長年にわたり継承され、その間に無数の実験体が生み出されていった。
実験体はミュータント(突然変異体)と呼ばれ、人の形をなさないものも少なくはなかった。
やがてその非道人道的な行いの中で、究極ともいえる二体のミュータントが誕生する。
それが、ノアとハクの双子の姉弟であった。