石塚が打席にたつと、哲哉は即座に観察をはじめていた。
立ち位置、バットの握り方、骨格などを見極め、事前に得ていたデータと照合して石塚への配球を決めた。
内角高めに三速の直球を要求する哲哉。
それに小さくうなずくと、八雲は大きく振りかぶった。
哲哉がかまえたミットへ、吸い込まれるように突き進む白球。
石塚は微動だにせずにそれを見送った。
内角高めを苦手とする打者は多い。
だが、高校球児としては小柄な石塚はスタンスもそれほど長くはなく、どちらかといえば内角を得意としていた。
それを知りながら、敢えて哲哉が内角から攻めたのは、石塚が高い確立で初球を見送ることを知っていたからだった。
二球目には外角高め、七速の球をボール一個分外しての勝負。
石塚はこれも見送っていた。
石塚の選球眼の良さを知り、哲哉は直ぐさま記憶データに修正をかける。
そして選定した三球目は、初球と同じ内角高めだった。
ただし、内側にボール半個分外した四速と微妙に変えていた。
対する石塚は、八雲のピッチングに目を見張っていた。
初球は百二十四キロ、二球は百三十六キロと哲哉の要求通りに誤差なく投げ込んだ八雲。
その投球フォームに、僅かな違いもみつけられなかったのである。
『…結城だけのワンマンチームかと思ってたが、大澤は完全復活してるみたいだし、それに加えてこれほどのピッチャーを隠しもってたとはな』
身構える石塚は、やみくもにバットを振っても打てぬと判断し、高低は捨てて内か外かだけに山を掛けた。
八雲の手元から三投目がはなたれると、石塚はわずかに身体をひらいてバットを繰り出した。
山は見事に当たり、繰り出したバットが白球をとらえる。
だがここで、石塚に想定外の事態が起きた。
八雲の直球をとらえた瞬間、石塚はあまりの球威に手の感覚を奪われた。
打球はかろうじて前にとんだものの、勢いなく三塁方向に転がっていた。
深めの守備をとっていたサードの織田は、猛ダッシュで打球にむかう。
直接右手で打球を掴んだ織田は、そのままファーストの大澤へと送球する。
大澤の捕球とほぼ同時に一塁を駆け抜ける石塚。
その判定に、球場全体が息をのんだ。