「…先ほど早く天国に行きたいとおっしゃってましたが」
もったいをつけながら話を進める。
「あの世にあるのは天国だけではございません」
にやり、と笑って子供を見ると、意味を理解したのか顔色を変えて首をふりながら、
『やだやだ!ぜっったい地獄なんかいかないからね!』
すでに泣きそうだ。
「…お客様。これはあの世の決まりでございます。人は皆お亡くなりになると必ず、神様と閻魔様の審判を受けなければなりません。そこで天国か地獄かを決められるのです」
『ええ〜…』
子供はかなり落胆しているようだ。
(そう簡単に天国に行かれてたまるか!せっかく話の盛り上がる場面だというのに!)
ついさっき、刺激が強すぎるのではと躊躇したことなどすっかり忘れ、再び暴走を始めた悪い母親。
「今はこちらでお待ちになって、お名前を呼ばれましたら第1会議室にお入りください。あ、お飲みものなどいかがです?」
『いいから早く先進んでよ!』
「そうですかあ?では○○○様、お入りください」
『トントン、しつれいしまあす』
「ふむ、ではそこに座りなさい」
神様といえば白髭のおじいさん、そんな乏しいイメージで、必死に声色を作ってみる。
『神様!?』
「ああそうじゃ」
とたんに子供の顔がぱあっと明るくなる。
『おおっきくって白くって、石でできてるんだよね?』
あるテレビゲームに登場した神様は、山のように大きく白かったが、事情があって石化していた。子供の大のお気に入りで、夕方そのゲームでひとしきり遊んだ後、夜はストーリーを寝物語にせがまれたっけ。おそらくそのイメージなのだろう。
「私語はつつしむように。これからおまえの審判を始める。天国行きと地獄行き、どちらがふさわしいか決めるのじゃ」
『○○○は何も盗んでないし、誰も殺してないし、大丈夫だよ?』
子供は警察に捕まるような行為こそが悪いことである、と考えている。法律で裁けない罪も立派な罪である、とは思っていない。
「いやいや、しかし友達をいじめたりはしておらぬか?お母さんに嘘をついたりはしておらぬか?」
『してないしてないしてないよ!』
「ほんとか?では証人として友達のほのちゃんをここへ」
『いやあ〜っっっ!!!』