「淳さん・・・。しっかりして、ね、淳さん・・・。」
病室の外から、中を覗くと、淳の彼女は、殆んど意識の無い、淳の肩や背中を一生懸命擦って居た。
吐血する淳を見て、動揺する私とは違い、冷静に、対処している彼女の姿を見て、暫く、私は、病室の中へ入って行く事が出来なかった―\r
「香里、さっき言ったでしょ?淳は、香里に側に居て欲しいんだって・・・。躊躇してる場合じゃ無いよ。」
茉莉子は、そう言って、私の肩を叩いた。
「う、うん・・・。」
私は、茉莉子に促されるまま、ゆっくりと病室に入った。
「何なのよ。淳さんが吐血する姿見て、病室から逃げて来たくせに・・・。香里さんには、何も出来ないのよ。淳さんの側には、私が付いてる・・・。出てって。」
「あんたねぇ、いい加減空気読みなさいよ!!淳が好きなのは、香里なの・・・。さっきも、香里、香里って、呼んでたじゃない。本当に良い女なら、こう言う時は、さっと立ち去るものだけど。」
茉莉子が、こんなに、人にハッキリ物を言う姿は、見た事が無かった。嬉しい気持ち半面、彼女の気持ちを考えると、私は複雑だった―\r
「茉莉子・・・。ちょっと言い過ぎじゃ無い?」
「香里が、彼女にちゃんとした態度を取らないからじゃ無いの・・・。」
茉莉子の言葉を聞いて、淳から、さっき貰った、婚約指輪の話も、彼女に、ちゃんと話しておくべきだと、決心した―\r
「うん・・・。あの、あのね・・・。」
淳の彼女の眼孔は、とても鋭かった―\r
「あっちゃんが、さっき苦しいのに、これを私にくれて・・・。プロポーズしてくれたの。こんな状態だから、結婚出来るかどうかは、判らないかも知れないけど・・・、あなたが、あっちゃんの事を愛してるのも知ってる。でもね、今は、二人にして欲しいの・・・。お願い。駄目かな・・・?」
淳の彼女の目頭からは、涙が留めど無く流れて、顔は、紅潮していた―\r
三十秒程、沈黙が続き、彼女は、黙って、病室を出て行った。
私は、一瞬、彼女の背中を見た。その背中は、今までに見た事の無い位に、悲しそうに見えた。
私が、ベットの側に立った時、淳は、吐血した血を拭き切れていない状態で、グッタリとして、意識は無かった―\r
「あっちゃん!!ねぇ、あっちゃんってば・・・。ねぇ・・・。やっと・・・、一緒に居られるのに。目・・・、醒ましてよ、ねぇ・・・。」
涙声が、嗚咽に変わって行った―\r
茉莉子は、そんな私の姿を見届けて、病室を出て、淳の彼女を追って、廊下を走って行った―\r