怒ってなかったような気がする。
ちょっと安心した。
辺りを見回すと、土手の下の平地に小さな公園があった。
ここの公園でよく遊んでたなあ。
何か懐かしい。
私は優花を待つために、土手を降りていって公園にあるブランコに座った。
鎖を掴んでゆっくりブランコを動かしながら空を見上げた。
そこには澄み渡った青空が広がっていた。
私は子どもの頃から空が大好きで、晴れの日はよく空を眺めてた。
画用紙いっぱいに空の絵を沢山描いてた。
あの絵、どうしたっけ。捨てたかな。
「何してんの?」
近くからそんな声が聞こえた。
私がその声の聞こえた方を見ると、男の人の顔が私の真横にあった。
私はびっくりしてブランコから落ちそうになる。
いきなり現れたのもあるけど、一番は顔の近さだった。
「そんなに驚かないでよ」
その人は笑いながら言った。
何なんだろ、この人。 ナンパじゃないよね。
見た目は私と同い年くらいで、短い黒髪に紫のパーカーを着ている。
私は少し不審に思いながら、その男の人を見ていた。
「いいよね」
「え?」
私は思わず聞き返した。
「空だよ、空」
「ああ、うん。いいよね」
「俺、好きなんだよね」
「私も」
「ほんと?!」
そう言って私の方を見ると、その人はキラキラした目で私を見た。
そして私の隣にあるブランコに座った。
この人も空好きなんだ。
悪い人じゃなさそう。 そんな気がした。
「ねえ、名前何て言うの?」
名前なんて聞いてどうするの。
もう会わないかもしれないのに。
聞いちゃってからじゃ遅いけど。
「アオト。吉澤空人」
「アオト?」
「うん。空に人って書いて、アオト。アオトって呼んで」
何か珍しい名前だなあ。
アオトと同じく名前を説明したいけど、なかなか言葉が出てこない。
しょうがないから落ちてた木の棒で地面に漢字を書いた。
「莉空かあ」
「うん。私、この漢字好き」
「空って入ってるしね。俺と一緒だ」
何か嬉しい。
同じものが好きで、同じ漢字が入ってる人がいるの。