「ふぅ、終わった」
キーオーは思わずそう漏らした。気づけば日も暮れ、小麦畑は橙色に染まった。死体は村の墓地へと埋葬された。キーオーは幼い頃から死体は見慣れていたためこの程度の事はどうってことなかった。けれども、悲しくはなった。キーオーは自然の摂理の中で寿命をまっとうした死は納得がいくが、戦争や不慮の事故で訪れた死は納得がいかなかった。
(なら、どうしてこの世に生を受けたんだ?)
そんな疑問がキーオーの頭から離れなかった。
キーオーたちが家に着いた頃、夜が訪れた。
空に2つの月が昇る。1つは金色に輝く丸い月「ルクルクシアル」。もう1つは灰色で溶岩のようにゴツゴツと穴の空いた形の「レラクス」だ。
古い言葉で「ルクルクシアル」とは「太古からの光」を意味し、「レラクス」とは「傷」を意味する。
「はるか昔、月は1つだった。それが何かの理由でもう1つできた。次来る時は、ブラン・ベイルに行ってそれを確かめて来る。」
去年の雨季に叔父さんはそう言った。けれどもキーオーには、いくら叔父さんが言った事でもさすがに信じられなかった。彼にとって月は2つあるものだった。 しかしかつて月は1つだった。ブラン・ベイルの世紀末の石板に描かれている空には、月は1つしかなかった。それは二億年前に描かれたものだった。と、その夜叔父さんは語った。
語りが終わると祝いの席が設けられ、酒が振る舞われた。そして村人一人一人に叔父さんが土産を渡した。セイルは西の方独特のデザインの首飾りをもらっていた。
(叔父さん、今年は何くれるだろ)
キーオーは土産を心待ちにしていたが、叔父さんは
「お前には後でやる。」
と言い、酒の席に向かった。キーオーは何故後なのか不思議に思ったが、自分には何か特別なものをくれるのではないかと期待が膨らんだ。
土産の首飾りを自慢するかのように、セイルが近づいて来た。
「お前は何もらったんだ?」「分からない。後でやるって言ってた。それより外に出ないか?」