2人は祝いの席が設けられた村の集会場の外に出た。蚯蚓が鳴いていた。見上げると空に月が2つ架かっている。ルクルクシアルが放つ金の光とレラクスが放つ銀の光が混じり合い、小麦畑を幻想的に染めている。時より吹く風が、体と湿気で体にへばりついた服との間に隙間を開けた。
「俺、旅に出るかもしれない。」
キーオーがきり出した。
「もう俺も16だし、叔父さんが連れてってくれるかもしれないんだ。」
叔父さんが僕を連れてってくれる。何故そう思ったか分からなかったが、何と無くそんな気がした。
「そうか…そうなったらお前は遠い所に行っちゃうのかな?」
一瞬、風が強く吹いた。風に服がなびいて、体と服に隙間が開く。今後は広い隙間が。
「ごめん、そんなつもりじゃなかった。」
そう、その通りだった。ただ自分の事ばかり優先してセイルの事は考えていなかった。長い沈黙の後でセイルが言った。
「俺は村で、お前は世界中で、お互い生きて行こう。じゃあな。」
そしてセイルは家へと向かった。
セイルが去ってからもキーオーは考えていた。セイルが最後に言った一言。彼だって血はつながってなくとも立場は同じ、叔父さんの甥。キーオーだけ特別扱いされた悔しさを必死に隠してた表情。そのすべてがキーオーの心に大きく突き刺さった。彼の事を考えていなかった。まだ叔父さんが連れてってくれると決まった訳じゃないのに。
何分かたった。でも風が止むことはなかった。