天使のすむ湖34

雪美  2006-08-27投稿
閲覧数[357] 良い投票[0] 悪い投票[0]

その晩は、安心しきって深い眠りについた。
しかし、なぜか目が覚めてしまい、隣に寝ていたはずの香里がいなくて、探し始めた。
外はひどい春の嵐が吹き荒れて出窓に雨が音がするほど当たっていた。とりあえず屋敷内を探すが姿は見えない、まさかとは思い、外へ出ると、湖の中に立ち、ずぶぬれになって水の中に行こうとするところだった。
「やめろー香里ー」
俺は夢中で湖に入ると、足元にしがみついて止めた。しかし香里は力強く振りほどこうとして、
「死なせてー私は一樹に天使だなんて言ってもらう資格の無い女よ、もう死にたいの、死にたいのよー」
香里は叫んで更に中へ行こうとする、力強く引き寄せて、俺も必死で止めた。
「香里死なないでくれー香里は天使だよ、心の綺麗な天使さ、だからどんなに皆が傷つけようとしても、その心を守るために、心の病になったんだ。死なないでくれ、俺のために死なないでくれ、今香里を失いたくない、悲しみも苦しみも辛さも一緒に背負うから、だから今は死なないでくれ、残された時間を俺に預けてくれ、愛してるんだ、香里・・・」
叫ぶように俺が必死で言うと、香里は俺にしがみついて
「一樹、本当にいいの、私・・・」
そのまま崩れるように倒れ掛かってきた。ずぶ濡れで冷たくなった体を、抱き上げて寝室に運んだ、よく拭いてから着替えをして、髪にドライヤーをかけた。熱を測ると39℃を超えていて、主治医を呼んで、点滴をしてもらった。
香里水分を少しずつ補給しながら、俺は背負っていた悲しみや苦しみに思いをはせていた。どんなに苦しかっただろう、そのことを知ったからといって俺は愛しているよ、どんな香里も受け止めると決めたのだから、せめて最後の日まで一緒にいたいと思うのだった。

ふと、柏原先生の言葉を思い出した。回復期にはなぜか、自殺願望が強くなるから何が何でも止めるようにと言われたのだった。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 雪美 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ