ベースボール・ラプソディ No.35

水無月密  2010-06-02投稿
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 塁審が右手をあげ、アウトのコールを告げると、観客達は見応えのあるクロスプレーに歓声をあげていた。
 その中で、誰よりもこのプレーを喜んでいたのが八雲だった。

「さすが織田さん、頼りになりますなぁ」
「守備は任せとけって」
 力強くグラブをたたく織田。
 八雲は自分の後ろを任せる仲間の存在を、頼もしく感じていた。


 下馬評こそ低かったが、橘華高校の守備力はかなりのレベルにあった。
 それは試合を重ねるごとに周知のものとなり、人々の耳目を集めることになる。


 後続の二人も凡打に終わるが、橘華の攻撃もあっさりと三人で終わり、二回の攻防に動きはなかった。



 三回の表も鈴工は三者凡退に終り、スムーズに攻守が入れ代わる。

 裏の攻撃は二巡目の小早川から。
 小早川はかるくバットを振ってから打席にはいると、哲哉からのアドバイスを思い起こしていた。
「しゅうのその脚は、野球でもかなりの武器になるんだ。
 それは大澤さんや八雲の才能にだって、見劣りはしないんだぜ」

 相手投手がゆっくりと振りかぶる中、小早川は身構えたまま笑みをうかべた。
『失敗しても、文句はいいっこなしだぜ』

 初球が放たれた瞬間、小早川は身をかがめてベース上にバットを差し出した。
 セーフティーバントだ。

 小気味よい音とともに弾かれた打球は、三塁線の内側を沿うように転がっていた。
 不意をつかれたバントに、三塁を守る石塚は猛ダッシュで打球にむかう。
 だが、彼が送球体勢にはいった時には、小早川はすでに一塁上を駆け抜けていた。


「しゅうのヤツ、いつもより速くなかったか?」
 球場全体がざわつく中、あの速さは反則だといわんばかりに塁上の小早川を見つめる八雲。
「畑は違えど、しゅうも一流のアスリートさ。
 その種の人間って、例外無く本番に強いもんさ」
 自分の打順にそなえる哲哉は、いそいそと答えていた。




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