「・・・・・。」
呼び止めたはいいが何を話していいのかよくわからなかった。
ぼくは一体何をしたいのだ?
何故彼女のことを呼び止めたのだろうか?
自分でもわからない。
ただ一つ確かなことがある。
それはこの不思議な力をもつ美しい女性のことをもっと知りたいという絶大なる好奇心。
それは単純に性欲を通りこし、体の内側からあふれてくる感情のように思えた。
いろいろ考えてぼくは次に口にすべき言葉を選んだ。
「待って、ちゃんとお礼をさせてくれないかな?」
「お礼?」
「そう。君はぼくの命の恩人なんだ。だからきちんとしたお礼がしたいんだ。」
「お礼・・・」
彼女は小さく呟いた。
それはまるではじめて聞いた外国の言葉をそのまま繰り返しているようにぼくには聞こえた。
少し間を置いて彼女は答えた。
「お礼を言われるようなことを私はしていないわ・・・私はただ誰かが巻き添えになって死ぬのを見たくなかっただけなの。特別なことをしたわけじゃないわ。」
凛とした口調で彼女はそう言った。