しばらくの間、慶太郎は黙って光希を見つめた後、ようやく口を開いた。
慶「…光希はピアノが好きなんやろ?」
光「…うん」
慶「……俺な、怪我してドラム叩かれへんかった頃、ほんまは迷ってた。ほんまにドラムが好きなんかなって。
こないだ言われてん。お前は達也を抜かしたかったんやって。達兄は頭悪いけど、何でもできて、俺、ほんまは多分、ずっと悔しかった。だから、ドラムもほんまは、達兄を抜かしたくてやりたかったんやないかなって……でも、怪我で叩けんかった時、ただドラムがしたくて仕方なかった。やっぱ俺はドラムが好きなんやなって。」
光「…」
慶「“好き”って気持ちだけじゃ、夢は叶えられんかもしれん。でもな、“好きやから”って気持ちに勝てる理由なんてないやろ?だから…」
光「…」
慶「ピアノ、好きなんやろ?なら、自信持てよ。…もし…またうまくいかなくて、悪い評価を受けたとしても、俺は光希のピアノが好きやから…だから、まあ…そばで聞けなくなんのは、やっぱ寂しいねんけど…」
笑う慶太郎。そんな彼を見つめる光希の目の前が滲む。そして――
光「…」
慶「…みつ…き…っ!?」